あの日、配達先で若い女性社員に言われた言葉が、今でも耳に残っている。「あなたの店の弁当って、ダサいところとか、味の薄いところとか、見た目が年寄りの弁当みたいで嫌なんですよね。」父と母が心血を注いで作ってきた弁当を、まるでゴミのように扱われた。悔しさと怒りで、私は得意先を失うことを承知で「それで結構です」と言い放ってしまった。その場は去ったものの、帰りの車の中では、両親の顔が浮かんで仕方なかっ…
同窓会の賑やかな店内に、同級生の井上の鋭い声が響き渡った。 「俺とお前じゃ人間の核が違うんだよ。核が。負けねえ。」 周囲の同級生たちが困惑した表情で顔を見合わせる中、彼はさらに声を張り上げた。 「今日だって、ただ飯にありつけると思って、のこのこ顔を出したんだろう。ああ、お前みたいな寂しい人間にだけはなりたくねえわ。」 賑やかだった給事が、彼のわざとらしい声にだんだんと静まり返っていく。そして、一人だけ得意げな様子の井上は、俺にこう言い放った。 「底辺の負け犬が、よく来れたもんだな。俺みたいなエリートになってから来いよ。ほら、負け犬君のお帰りだぞ。」 上機嫌でそう言うと、彼は俺の腕を無理やり引っ張り、帰らせようとする。幼稚極まりない言動に、俺は心の底からため息をついた。そのまま帰っても良かったのだが、さすがにここまでのことを言われては、気の長い俺でも頭に来る。なので、俺は2個と3個と、お土産を残してやることにした。 俺の名前は佐々木勝。幼い頃から父と二人で暮らしてきた俺は、父の負担になるのを嫌って高校進学を諦め、中卒で就職した。その当時は、中卒で働くことを周囲から色々と言われたり、馬鹿にされたりしたが、下向きな努力の甲斐もあって、今はまともに生活できている。 そんなある日、俺は中学の友人から電話を受けた。今度同窓会があるから、俺も来ないかとのこと。 「へえ、そうなんだ。にしても突然だな。誰が幹事やってるんだ? 」 何気なく聞いた俺に、電話口の友人は少し言いにくそうにして答える。 「ああ。うん。ほら、井上たけしっていただろう。あいつが幹事なんだと。俺もあいつとつるんでたから、誘われて。連れてこられる相手がいるんだったら、連れてこいよって言われて。」 竜人の口から飛び出したその名前に、俺は思わず砂を噛みしめたような心地になった。井上たけし。それは、俺が中卒で就職することをことの他笑い物にしてきた元クラスメイトの名前だ。 「お前中卒で就職するってマジか。うわあ、そういうのフィクションだけの話だと思ってたわ。家が貧乏な上に、本人も大して頭が良くないと、苦労するんだな。」 そう言って勝ち誇ったように俺を見下してきた、あの日の彼の笑顔が、俺の脳裏をよぎっていく。電話口の友人も、俺が井上にどういう扱いを受けていたか知っているだけに、気を遣って戸惑っていたのだろう。 「うーん。あいつがいるんだったら、俺は行きたくないな。」 だが、独り言のようにそう呟いた俺に、友人はすがるような声をあげる。 「え、そんなこと言わずにさ。実はさ、その同窓会に、お前と同じクラスだったゆきちゃんも参加するって聞いて。れ、俺、ゆきちゃんのこと好きだったの。お前も知ってるだろう。」 「ああ、そういやそうだったな。」 俺と同じく未だ独身の友人は、どうやら同窓会での再会を機に、彼女がフリーだった場合はお近づきになりたいのだという。 「それに、あれから20年以上も経ってるだろう。井上だっていい加減、大人になったさ。なあ、頼む。なるべく人を連れてきてくれって言われてるんだよ。ここは、俺を助けると思って。」 へえ、と俺が我慢ばかりの勢いでそう言われ、やがてしぶしぶながらも同窓会への参加を了承した俺に、友人は喜びの声をあげる。 「ありがとう。やっぱ、持つべきものは心優しい友達だな。じゃ、詳しい時間と場所は後でメールするから。」 こうして、その電話から半月後、俺は久しぶりの同窓会に参加するべく、地元へと帰ったのだった。 さて、友人と連れ立ってやってきたのは、地元駅前の、小綺麗な居酒屋。今日はここを貸し切っての同窓会らしい。 「そういえば、今日の会費っていくらだっけ? 」 入り口で財布を取り出した俺に、友人が首を振った。 「今日のはなんと、幹事の井上が全て持つんだと。」 「え、そうなのか。そりゃまた豪気なことで。」 内心、しまいながら、そういえば井上は昔から見えっぱりの傾向にあったなと、ふと記憶が蘇る。 そして入店して早々、友人は通路の向こうにゆきちゃんを発見したらしく、速攻で声をかけに行ってしまった。その後ろ姿に苦笑し、俺は適当なテーブルに腰を下ろし、届いたビールをちびちび飲み始める。店内はそこそこに混んでいて、あちこちで賑やかな笑い声が上がっている。ここにいる同級生たちよりは一足先に社会人となった身だが、華やかな店内の雰囲気は、どこか過ぎ去りし青春時代を彷彿とさせて、俺はその雰囲気を楽しんでいた。 だが、その時、何の断りもなく俺の横に、どっかりと腰を下ろしてくる人物が現れた。 「よお、相変わらず、しけた面してんな。」 こんな物騒な言葉を挨拶代わりに投げかけてきたのは、案の定、俺の中学時代のクラスメートにして、この同窓会の主催者、井上であった。 あれから20年以上経ち、互いにいい歳の外見になったとはいえ、彼のその目の奥に見え隠れする意地の悪さは、あの頃のままで、それを見て取った俺は、早くもうんざりしてしまう。 だが、そんなこちらの心中など知るかとばかりに、井上は、獲物を見つけた猛獣のごとく、俺に狙いを定めたようだった。 「お前、全然変わってないのな。ああ、もちろん悪い意味でだぞ。」 その鼻持ちならない軽薄な物言いに、俺は内心で深くため息をつく。 「ほら、俺なんて、どこにいても目立っちゃってさ。」 そう言って、わざとらしく肩をすくめる井上。確かに彼は、中学時代、イケメンで通っていた。頭も良く、背も高く、また家も裕福だったため、女性にもよくモテていたように思う。彼はそのまま進学校へと進み、有名大学を卒業後、この地元では名の通った企業に就職したと、ここに来る前に友人が話していた。 だが、俺の目の前で、あんなに自分の容姿の良さを鼻にかけた発言をする彼は、正直なところ、かっこよくは見えない。背の高さこそ顕在ではあるが、その若作りな外見から滲み出す、何とも言えないいやらしさが、せっかくの素材を完全に台無しにしてしまっているからだ。 内面が外見に現れるって、本当だなと、しみじみと関心している俺を知ってか知らずか、井上はなおも、自分の身の上話という名の明らかな自慢を、一方的にベラベラと喋っている。 「俺さ、職場で昇進が決まったんだよ。あ、今は俺、課長なんだけど、手掛けた案件が高評価だったらしくて。で、それの手柄で、なんと部長に抜擢されてな。いや、上がどうしてもって言うからさ。」 酒臭い息を吐きながら、ニヤニヤとそう口にする彼は、言葉とは裏腹に、内心、自分の昇進が嬉しくて仕方がないらしい。全く隠せていない優越感で顔をピカピカと光らせながら、井上は続ける。 。 「同期の中じゃ、俺が一番の出世頭なのは事実なんだけどな。で、同窓会も最初は開くつもりなんてなかったのに、あいつらが、折角だし、仲良かった奴らも呼ぼうぜって、盛り上がっちゃってさ。結局、俺が幹事やらされてまったよ。」 まあ、と上辺だけの困ったふりで、井上が視線をやったのは、中学時代に彼とよくつるんでいた数人のグループ、いわゆる彼の取り巻きたちだった。 そうは言うが、真実は、自身の出世をただただ自慢したい井上が、取り巻きたちに声をかけ、費用は自分が払うからと言って、人を呼ばせたのだろうと、俺は推察する。そうじゃないと、井上とは直接関わりのない、別のクラスだった俺の友人にまで話が来るのはおかしいし、仕切りに人数を集めることにこだわっていたことへの説明もつかない。 俺は、果敢にゆきちゃんへとアタックし続けている友人の背中を、ちらっと見やった。 「あれから20年以上経っても、どうやら相手は大人になれてないらしいぞ。」 けれど、内心ため息をつきながらも、無難な愛想笑いのみを繰り返す俺に、やがて彼は面白くなさそうな表情を浮かべ、話の方向性を変えたようだった。井上は、自身の自慢を引っ込める代わりに、俺への直接攻撃を始めたのである。 「お前さ、今はこっちにいないみたいだけど、何の仕事してるわけ? 中卒の低能なガキを拾ってくれるところなんて、所詮しょぼい零細企業だろうけど。」 … Read more